2024年4月18日
LIFE STYLES

路面電車のススメ

路面電車今昔

かつては東京をはじめ、日本各地の都市部で活躍していた路面電車。例えば、現在東京には専用軌道で走る都電荒川線の一路線しか「都電」は残っていませんが、往時には40系統(40路線)、総延長にして約210キロメートル以上、最盛期の1950年代には一日170万人以上の人々が利用する「都電」が走っていたのです。

それらは、乗用車やトラック、バスなどの増加、地下鉄路線の充実などに伴って廃止されていき、今や都電としては荒川線のみ。それ以外でも路面電車としては都内には東急世田谷線が残されるのみとなっています。いずれも専用軌道があった為に生き残った訳ですが、その他の路線は「(自動車等の)交通の邪魔」「不採算」等の扱いで廃止されていきました。それは東京だけに限りません。年配の方ならご存知だと思いますが、かつては、北は北海道の旭川から、南は沖縄の那覇まで、日本国内には数多くの路面電車が走っていたのです。一般的な鉄道や地下鉄などに比べて工事費用が安かったことも、路面電車が各地に広まった要因の一つでしょう、今では考えられないほど、実に数多くの路線が存在していたのです。

熊本の路面電車(熊本市電)熊本の路面電車(熊本市電)

それらのほとんどは、やはり都電と同様の理由で姿を消していきました。交通の妨げとして、バス路線との競合として、次第に片隅に追いやられていなくなっていきました。(京阪、阪神、阪急などのように、併用軌道から専用軌道の鉄道路線に格上げされたものも一部存在します。)そうして、いつしか路面電車は(一部地域を除いて)過去の遺物のような扱いを受ける存在になっていったのです。

鹿児島の路面電車鹿児島の路面電車(鹿児島市電)

現在の路面電車

ところで。今日の日本の地方都市に目を向けてみると、実はまだまだ元気に活躍している路面電車が沢山あります。

それらの地域では「交通量が路面電車を邪魔者扱いにするほど極端に増えなかった」「路面電車以外の公共交通機関がそこまで充実しなかった」などの理由もあったのでしょう。廃線を免れ、現在も活躍しているのです。地域の人々の大切な足となり、車やバスなどとも共存しています。

仕事や観光などでそれらの地方都市に出かけて行って、あらためて路面電車に乗ってみると、意外というか、かなり便利であることに気が付かされます。まず、なんといっても圧倒的に楽なのです。地下鉄やJR、私鉄のように階段やエレベーター、エスカレーターを利用して、上や下に移動する必要がほとんどなく、せいぜい数段ほどの階段やスロープを上がれば、もうそこはプラットホーム。そのまま路面電車に乗れてしまいます。電車より乗り降りが楽という意味では、バスも同様ですが、渋滞などに左右されてダイヤが乱れやすく、電車程には時間が正確ではないのが少々辛い所。かたや「路面電車」は多少の渋滞の影響は受けつつも、ある程度時間に正確です。路線図も「バス」よりはわかりやすく、荷物の積み下ろしなども楽。「路面電車」は、「バス」のように(時には「バス」よりも)乗降が楽チンで、電車のようなわかりやすさ、正確性、利便性を兼ね備えた乗り物なのです。

高度成長期の日本社会は、車の往来の妨げになる、というような理由で路面電車を次々に廃止してしまいましたが、来たる超高齢化社会を考えても、オリンピックや万博きっかけを含めた、さらなる海外からの観光客の利便性などを考慮しても、今こそ路面電車の有益性、利便性をあらためて考える必要があるのではないでしょうか。

交通弱者といわれる年配者や、乳幼児にも優しい交通手段であり、言葉や、やり方がよくわからない観光客にも乗りやすい交通機関、それが路面電車だと思います。(「鉄道」のような感覚で、初めてでも乗りやすい「路面電車」に比べ、知らない街で「バス」に乗ることのハードルの高さは、海外や国内の初めて訪れた土地で「バス」に乗ったことのある方ならご存知でしょう。)

富山の路面電車富山の路面電車(富山市電 セントラム)

LRT(次世代型路面電車)の新設や延伸などのニュースも時折耳に入ってきたりはしますが、残念ながら中々うまくは進んでいない印象です。海外の観光都市の路面電車の成功例なども参考にしつつ、本腰をいれて検討する価値は十二分にあると思うのです。

 アイルランドの路面電車Luas(ルアス) アイルランドの路面電車Luas(ルアス)「The Point 駅(アイルランド語: Iosta na Rinne駅)」

路面電車の一利用者としても、例えば地方に出かけた際には、移動手段の一つとして、積極的に利用してみることをおすすめします。単に、車窓から町を見ているだけでも楽しいですし、観光や仕事の合間のちょっとした休憩を兼ねることも出来ます。そしてなにより、地元の人々の中に混じって乗っているだけで、その町の空気を感じ、雰囲気を味わい、その町の魅力の一端に少し触れることもできるのです。

少子化、超高齢社会の問題や、海外からの観光客を数千万人以上にするために山積みの課題を解決する為の方法の一つとしても、今改めて「路面電車」に光を当てる必要があるのではないでしょうか。

札幌の路面電車(札幌市電)札幌の路面電車(札幌市電)

京都の路面電車(京都市電)京都の路面電車(京都市電)

大阪の路面電車(阪堺電車「チン電」)大阪の路面電車(阪堺電車「チン電」)

広島の路面電車(広電)広島の路面電車(広電)

富山の路面電車(富山市電)富山の路面電車(富山市電)

函館の路面電車(函館市電)函館の路面電車(函館市電)

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